治 療 以 前


 長年患者さんと接していると、力学整体の指導をする際に、理論とか技術より以前にもっと根っこのほうに深い問題があることに気づかされます。
 そのことが、力学整体に取り組まれる際に、大きな障碍になってきますので、これからお話しする内容は、理論とか技術などの話よりもある意味で非常に重要な問題ということになろうかと思います。
 最近は、整体という名称も一般に知られるようになってきて、整体やカイロプラクティックなどを求めて、こうした各種の療法を受ける人も多くなりました。
 しかし、そうした人たちの中には、こうした療法を受けさえすれば良くなるんだと思い込んでいる人たちが非常に多いのです。
 というもの、ほとんどの治療院では、患者さんに施術を行なうだけで、患者さんは施術をやってもらうだけというやり方をしているからだと思います。
 そのため、いつの間にか、治療は人にやってもらうもの、人にやってもらってはじめて健康になれるものということが広まってしまい、治療をやってもらうことだけを目的に治療院を訪れる人が多く、力学整体の治療室でも、初めての方はそういう目的で来られています。
 しかし、力学整体の指導の目的は、治療ということにあるのではなくて、1人でも多くの人が各自に与えられている生命の力を自覚して、その生命の働きを妨害している原因を除去する方法を学んで、本来自分に備わっている生命力を発揮するように心がけるようになっていただくことにあるのです。
 ですから、力学整体の技術も、そのためのものなのです。
 人にやってもらって元気にしてもらおうという人をつくるためのものではないのです。
 私は、以前、礒谷療法師として東京・中野の療法所で勤務していた頃、礒谷療法をいわゆる治療法として理解していました。
 私は、療法所に内弟子として入ってからというもの、礒谷療法を高弟の先生から直接覚えられるのがうれしくて、それこそ礒谷療法の技術を誰よりもできるだけ習得し、その習得した技術をみがくことに専念していました。
 礒谷療法は、非常に有名な治療法で、全国から治療を受けたいとか、学びたいという人たちが来ていました。
 しかし、それらの人たちは、私を含めて、礒谷療法を治療の技術として見ていたのです。
 ところが、施術の腕が上がり、患者さんからも信頼されるようになればなるほどおかしなことになってきたのです。
 「先生に任せておけば安心」とか、「いざとなったら先生にお願いすればいい」などと自分の体を他人任せにし、自分で元気なろうと思わないで、治療を受けさえすれば元気になれると思い込んでしまっているのです。
 食べ物を他人に食べてもらっても、本人にとっては栄養にはなりません。
 呼吸も同じことです。他人に呼吸をしてもらうわけいはいきません。
 体のことについては、他人と貸し借りができないのです。
 自分の体のことを、他人に代わってやってもらうというわけにはいかないのです。
 元気になって、健康になるためには、他人にやってもらってるだけではどうしても限界があるのというのに、どうしてこうした治療の世界では、自分で健康な体を作ることを忘れてしまうのか、私には不思議でした。
 体のことは、最後は自分でやらなくては身に付かないのだということでさえ分かっていらっしゃらないのです。
 そのまま、こいうことを繰り返していては、その人は元気な体を作っていくことの重要性に気がつかず、症状を消すことばかりを追い求め、自分の体を人任せにし、他人に頼ってばかりで健康な体を作れないことになってしまいます。
 まず、そのことを力学整体では、知ってほしいのです。
 ですから、力学整体の指導というのは、人間が本来持っている元気力を導き出す方法なのですが、そうした方法を覚えていただく前に、そのことを自覚していただかないことには何も始まらないのです。
 そのことが自覚できてはじめて、自分の体の中にある力を呼び起こす方法を学ぶ気になるし、また実行できるのです。
 身体を調整するためには、どうしても自己による鍛練が必要なのだというのが本当のところなのです。
 人間の体に本来備わっている力の働きを妨害している原因を除去し、その力を発揮できるように体を作りながら、体を整えていくというのが本当なのです。
 体の力を発揮できるように誘導してゆけば、自然と元気になれるし、自然に病気も経過してゆきます。
 だからといって、病気を治すことを目的にするのではなくて、重力場における人体の構造と機能に沿って、生体が持っている働きを発揮できる体を育ててゆくということなのです。
 力学整体では、力学整体の技術を病気を治すための技術であると考えてはいません。
 力学整体の技術は、体を作るためのものであって、体を作れば体にある力でひとりでに症状が消えてゆくものだということが分っているからです。
 それというのも、病気を治すという目的を持ってやるのではなく、だたひたすら体をいちから作り直そうとやっていったほうが効果があるからです。
 そういう意味から言えば、力学整体は、病気を治療するためのものではないということになります。
 力学整体は、生体の自然の働きを妨げている原因を除いて、本来の働きを回復できるようにするために体内の環境を整える手段としてやるものなのです。
 どんなにすぐれた治療を受けても、治療を受ける体自体がおかしくなっていれば、その治療を体は活かすことはできません。
 それに、いったん治療で症状がなくなっても、体が直っていなければ、また、再発したり、別の症状が出て来たりしてしまいます。
 表面にあらわれている症状ばかりにとらわれて、それを消すことばかりを追い求めるということを繰り返してしたのでは、症状の根っこにある本質を見失うことになってしまい、治療の力を当てにして、治療に頼ってばかりになってしまいます。
 だから、力学整体によって、病気を治して、元気になるということだけでやるのは本当ではないのです。
 誰もが元気になれる力を持っているのですから、そのことをまず自覚して、それから、その力を発揮できるような体を作ってゆくのが本当なのです。
 そのために、力学整体はあるのです。
 ひとりひとりの人が、自分の体の内奥にある生命の力の働きを自覚して、それを発揮できるように体を作り育ててゆけば、他人や治療の力を借りないでも人は自分の力で元気になれるのです。
 そのための理論と技術が、力学整体なのであり、これが力学整体の根っこの部分にある考え方です。

 ですから、力学整体の治療で病気を治してもらおうというのは、本来の趣旨から言えば間違いなのです。
 ところが、力学整体の技術は、とても簡単そうに見えるのですが、非常に複雑で微妙なところがあり、素人が簡単に行なえないところがあります。
 つまり、素人が自分だけで簡単に実行できる部分と、専門家でないと行なえない高度に難しい部分とがあり、施術や指導による違いは体に大きな影響を与えます。
 そのため、素人が自分ひとりで簡単に行なえる一般的な健康法として捉えることはできません。
 そういう自分では1人でできないところを、治療室では施術と指導によってお手伝いします。
 しかし、自分でもやってみていただいて、ある程度努力をしていただかないことには、何もしないで、ただ治療に寄りかかるだけでは、なかなか体を作り変えることはできません。
 そこを、施術者に治してもらおうというのは無理なのです。
 症状だけに目を奪われて、それを消すことばかりを追い求めていては、いつまでたっても体を作るということがなおざりにされたままで、その間にも体は悪くなってゆきます。
 そうして、本当の病気になってしまいます。
 力学整体では、そうした病人をつくりたくはありません。
 治療に治してもらおうと寄りかかるだけでは、本当は元気になれないのです。
 治療の力を当てにして、治療に寄りかかっているだけでは、よくならない体の状態になってしまっているのです。
 そいう人は、今までいろんな治療を受けに行って、どこへ行ってもよくならない人なのです。
 それは、体をちゃんと作っていないからです。
 だから、自分で自分の体はよくするんだと決心して、体を作り直すために本気で取り組むことが必要です。
 そうすることによって、治療を受けてるだけだった体が、変わり始めるのです。
 まずは自分でやっていただいて、それでは足りないところを調べたり、お手伝いをするのが力学整体の指導なのです。
 あそこの矯正治療はよく効くらしいということで、自分では努力をしないでただ体だけを持って来られても、そういう人をお引き受けしても、なかなかよくならないということになるわけです。
 そのため、自分に治療の理論とか技術が合っているかどうかを考えることも大事なのですが、それ以前に治療というものに取り組む姿勢というものが、特に力学整体では重要になります。
 ですから、自分の体の中にある力を発揮できるよう、体を作り直すことの大切さを自覚していただかないことには、力学整体では、何も始まらないのです。
 そうしたこころの準備がある人と、そうでない人とでは、せっかく力学整体に出会っても、後々の経過や結果が違ったものになってしまうのです。
 力学整体では、いかに治療以前の心構えが大切かということを、一人でも多くの人にご理解していただけたののなら幸いです。

力学整体研究所